日盲社協通信 令和4年(2022年)12月号(通巻85号)

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日盲社協通信 令和4年(2022年)12月号(通巻85号)
編集人:福山博   発行人:長岡雄一
発行所:社会福祉法人 日本盲人社会福祉施設協議会(日盲社協)
National Council of the Agencies of the Welfare for the Blind (NCAWB)
http://www.ncawb.org/

もくじ
大会開催のご報告と新たな試み 理事長 長岡雄一
茹でガエル現象の寓話と福祉施設 常務理事 荒川明宏
70周年記念大会へ第1回実行委開催 常務理事 吉川明
(誌上慶祝会)
第19回本間一夫文化賞は小林鉄工所小林博紀社長
日本点字図書館点字製作課課長 篠田朋子
長岡英司さんに第39回鳥居賞 日本盲人福祉委員会常務理事 指田忠司
第25回鳥居伊都賞を受けた山口規子さん 毎日新聞社点字毎日部 濱井良文
藤野克己氏のサリバン賞受賞を祝す 日盲社協参与・視覚障害者支援総合センター元理事長 髙橋實
令和4年度片岡好亀賞に田畑美智子さん
NPO法人アキレス・インターナショナル・ジャパン理事長 重田雅敏
視覚障害者の書きたい・読みたい願いに応える高知システム開発に点毎文化賞 霊友会法友文庫点字図書館館長 岩上義則
わが施設の今 第10回 毎日新聞社点字毎日部“創刊100年を迎えて” 点字毎日編集長 濱井良文
第70回全国盲人福祉施設大会(オンライン大会)
令和4年度アピール、奉仕者(ボランティア)表彰者名簿
ウクライナ協同基金報告 日本盲人福祉委員会事務局 鉾林さゆり
サイトワールドを中止したわけ NPO法人サイトワールド理事長荒川明宏
日盲社協事務局だより/編集後記

大会開催のご報告と新たな試み
理事長長岡雄一
皆様のご協力のおかげをもちまして、第70回全国盲人福祉施設大会を開催することができました。心より感謝申し上げます。
今回、ご講演をいただいたお二人については、事前に、日盲社協の将来についてをテーマにお話しいただくようお願いしました。演題そのものには直接表現されてはいませんでしたが、講演の内容はお願いしたテーマに沿ったものでした。
なぜ、このテーマをお願いしたのか? それは、来年の日盲社協70周年に向けて、記念大会では今後の日盲社協の役割をテーマに据えたいと思い、その出発点として問題意識を確認したいと思ったからです。
もちろん現状分析は必要ですし、今までにも取り上げられてきたテーマではあります。将来を見ていく上で、当然、俎上にのせられる課題であろうと思います。
ただ今回、高橋政代先生のご講演を聞いていて思ったこと。それは、iPS細胞をめぐる動きが、医学的価値を持つだけでなく、社会の構造にまで影響を及ぼしかねないということです。それは日盲社協にも少なからず影響を及ぼすでしょう。
また、竹下義樹会長の国連の権利条約についてのご講演をお聞きすると、日盲社協への直接的な影響をもっと掘り下げて考えなくてはならないことを認識させられることになりました。その点からは竹下会長からの権利条約への取り組みについてのご提案は非常にありがたいことだと感じています。
さて、2年続きで、全国盲人福祉施設大会は秋に開催とさせていただきました。秋にしたことには理由があります。もちろん、新型コロナウイルス感染の影響もありますが、それ以上に、1年のスケジュールを考えたとき、従来の6月開催は厳しいと考えたからです。
5月から6月にかけては、どの法人でも決算があり、理事会、評議員会と続きます。その中での大会開催は、決して楽なことではありません。ただ一方、どうして今まで6月開催が可能であったのか、必要だったのか、6月開催の意味は何だったのかも当然考えなくてはならないことです。ただ何となく6月に開催してきたわけではないと思います。
ひとつは、大会開催時に理事会等を開催していたことが考えられるでしょう。会計年度終了後3カ月以内には決算報告が必要です。そのためには6月はぎりぎりの期限です。
さらに考えられるのは、各部会による決議文の扱いです。他の法人もそうですが、決議文は大会で披瀝して終わりではなく、その決議を監督官庁等に届けることが重要なことです。官庁側としては、次年度予算を検討し終わった後に要望等を持ってこられても、当然先延ばしの対応しかできないことになります。
その期限が7月あるいは8月でしょうから、そこまでに決議文をもって陳情に出かける必要があります。また、決議文は法人の一部だけに承認を得て出されるものではなく、大会で決議されてこその決議文ですから、大会そのものが6月というのは非常に理にかなっているということになります。
しかし、ここ数年、状況は大きく変わってきました。大きいのは、社会福祉法人改革だと思います。理事と評議員の兼務を認めず、評議員会の存在価値を大きく高めました。同日開催していた理事会、評議員会でしたが、それは認められなくなりました。
理事会開催後15日を経て初めて評議員会は開催できます。現状では、手続き上のことも考えると、5月の黄金週間後に理事会を開催するしかありませんので、開催前の手順等含めると、5月中旬以降の理事会開催にならざるを得ません。そこから最低2週間をあけての評議員会開催となると、開催日は6月にずれこみます。
大会を6月開催にすると、準備等を考えた時、間違いなく決算報告と重なりますから、開催法人の負担は少なくないと思います。そこで、秋の開催案が浮上しました。
ただ、ここでネックとなったのが決議文の扱いです。
秋の開催で決議文を決議して、官庁に持ち込んでも、時期的には中途半端になりかねません。また、アピール文との関係でも、決議文として、法人のアピールとの整合性を取ることも必要です。
そこで、今回、大会でも少し触れましたが、次のような年間のスケジュールをお伝えさせていただくことにしました。
10月~11月:全国大会にてアピール文採択(オンラインの場合は事前に採択)
11月~2月:各部会・本部にて決議文の策定
3月:理事会にて決議文承認
3月~4月:会員施設にて決議文の承認
5月:厚労省陳情
5月~6月:理事会、評議員会にて陳情結果報告
8月~:アピール文策定
10月:理事会にてアピール文承認
10月~11月:全国大会にてアピール文採択、陳情結果報告
以上のようなサイクルで活動するつもりです。
また、従来、決議文は5部会のみが策定していましたが、法人全体としての決議文を本部でも策定することとしました。5部会の範疇に入りづらい内容あるいは5部会の横断的な内容を含むものを策定いたします。
今回、こうした方式にさせていただくことに、オンラインでの開催が可能となった全国大会の影響もあります。確かに対面での大会はそれだけで価値があると思いますが、インターネットを上手に利用することで、逆に会員施設同士のコミュニケーションの充実が図れたら、対面での大会開催の価値も上がるのではと感じています。
新たな試みに不安はありますが、ご協力をお願いしたいと思います。(東京視覚障害者生活支援センター所長)

茹でガエル現象の寓話と福祉施設
常務理事荒川明宏
茹でガエル現象とは、社会環境の変化に対する重要性と困難性を指摘するために用いられる警句で、「カエルは、いきなり熱湯に入れると驚いて逃げ出すが、水に入れて水温を上げていくと逃げ出すタイミングを失い、最後には死んでしまう」という寓話です。
経営コンサルタントなどによって、自然科学上の実験結果であるかのように語られますが、実際にはカエルは温度が上がると逃げるので、現実にはあり得ません。
しかし業績悪化が危機的レベルに迫りつつあるにもかかわらず低すぎる営業目標達成を祝す経営幹部や、敗色が濃厚であるにもかかわらずなお好戦的な軍部など、人は環境適応能力を持つがゆえに、漸次的な変化は、万一それが致命的なものであっても受け入れてしまう傾向もあります。
10月にシナノケンシの「リンクポケット」が製造中止になり、拡大読書器などの福祉機器も円安のため10%も値上げしており、社会は大きく変貌しつつあります。
欧米で点字プリンターを製作している会社で生き残っているのは、スウェーデンのインデックス・ブレイルだけで、他は潰れたり、身売りして残っていません。
(株)ラビットは視覚障害者用支援機器販売・サポートのかたわら同行援護事業も行っていますが、ガイドの人手不足が深刻で大手の(株)おともに協力を仰いで、年内に事業を移管・譲渡し撤退します。
ビジネスの世界ではM&Aといって、小さい企業ではやっていけないので、スケールメリットを生かすために「企業・事業の合併や買収」がよく行われます。
今回もラビットの小さい同行援護事業を大手に吸収してもらい利用者のために安定した事業継続を行うことが目的です。
世の中が大きく変わろうとしているとき福祉施設はどのような対策を立てているのでしょうか。これは「国から助成金や措置費をもらって運営する」という、高度成長時代のビジネスモデルが、この先未来永劫確かなものか問い返すことにより、その真価が問われているのです。欧米で起きていることは日本でも、株式会社で起きていることは、いずれ福祉業界でも起きるのではないでしょうか。
日本政府は赤字国債を資金に今年もバラマキ合戦を行うようですが、日本の巨額な財政赤字により、このままだと破綻は不可避だといわれています。わが日盲社協傘下の福祉施設はその国に頼りっきりになっていて本当に大丈夫なのでしょうか。
盲界は驚くべき速さで高齢化しており、それを支える人材も不足しています。例えばボランティア頼みの事業などは高齢化と、なり手不足がすぐそこまで来ていますが、その対策は考えられているのでしょうか。
老婆心ながら、茹でガエルの寓話を今一度肝に銘じるときだと思われます。(株式会社ラビット代表取締役社長)

70周年記念大会へ第1回実行委開催
常務理事吉川明
令和4年11月1日、来年開催の「日盲社協創立70周年記念大会」に向けて、第1回実行委員会が、東京都新宿区河田町の東京視覚障害者支援センターで開催されました。
第1回は対面開催で、集まったのは10月6日の理事会で選任された、実行委員の7人、伊藤宣真(日本点字図書館常務理事・本部長)、杉江勝憲(日本視覚障害者職能開発センター常務理事)、藤巻契司(東京光の家神愛園施設長)、本間律子(聖明園会長室会長秘書)、奥村博史(東京ヘレン・ケラー協会理事長)、山口義之(日本盲導犬協会専務理事)、吉川明(日盲社協常務理事)(敬称略、順不同)です。
冒頭、長岡雄一理事長は大会の方向性について次のように挨拶しました。
70周年は過去を振り返るというより、先を向いた記念大会にしたい。今年の大会講師として高橋政代先生(「持続可能な網膜の再生医療」)、竹下義樹会長(「視覚障害者の未来像と日盲社協の役割」)にお願いしたのは、福祉・組織の未来を考えるきっかけ、70周年大会につなげる意味を込めました。活発なご議論をお願いいたします。
長岡理事長の方針を受けて、①70周年記念大会の日程・場所などの概要、②記念事業、③記念講演の演者について意見が交わされました。
議論の中心は、理事長の方針「先を向いた大会」を記念事業・プログラムでどのように表現するか?「日盲社協に加盟していてよかった」と思える大会にするか、です。
長岡理事長、荒川常務理事との常務会では、杉江さん(職能開発センター)のところで日盲社協紹介DVDの作成、茂木(モギ)理事から50年~70年を中心にした年史の編集という案をもっていました。それを進め、ホームページをリニューアルして日盲社協からの情報発信を積極展開する。それにDVDや年史を組み入れる。これを70周年の第一歩にしよう、ということになりました。
講師の選定についても、今までの枠組みにとらわれることなく、会員施設の方が先を向くことができる演者を、委員が次回までに推薦することになりました。
最後は日程です。1泊2日にするか日帰りにするか? コロナの状況がまだまだ読めない中で、対面にするかリモートにするか?です。委員の意見は一致しました。
4年ぶりに対面開催(一部リモートも検討)、日帰りで中身の濃い大会にします。
開催日は10月下旬~11月上旬(比較的この時期はコロナが沈静している)とし、早く日程を決定し、会員施設に知らせることとなりました。
コロナ禍のため中止やオンライン開催を強いられてきましたが、70周年大会は久しぶりに、多くの会員施設に対面でお集りいただき、未来志向の盛大な会にしたいと考えています。(日本盲導犬協会顧問)

誌上慶祝会
第19回本間一夫文化賞は小林鉄工所小林博紀社長
日本点字図書館点字製作課課長篠田朋子
視覚障害者の文化や福祉の向上に貢献した個人・団体に贈る本間一夫文化賞の第19回受賞者が、株式会社小林鉄工所と代表取締役社長の小林博紀氏に決まりました。
小林鉄工所は、1933年に創業し、今年で90年目を迎えた京都市の産業用機械メーカーです。同社は創業当初より京都府立盲学校教諭や京都ライトハウス理事長を務めた鳥居篤治郎と親交があり、終戦後の1946年からは、盲学校等で需要のあった点字製版機の開発・製造にも着手しました。
小林博紀氏は、大学卒業後すぐに父が創業した鉄工所で働きはじめましたが、その年に父が急逝。若くして事業を引き継いだ小林氏は、手動・足踏み式だった点字製版機の電動化に取り組む一方、点字印刷機や点字タイプライター、点字作図機など製品ラインナップを拡大してゆきます。同社製の点字関係機器は、全国の点字出版所・点字図書館・盲学校等に多数納入されました。
特に注目すべき機器は点字製版機で、電動化を追求した結果、1984年に自動点字製版機ブレイルシャトルを完成させました。点字出版等の世界では大変馴染み深い、点字印刷用の原版を作る機械です。ブレイルシャトルで作った原版を使った点字印刷は、開発から30年以上を経た今も変わることなく受け継がれている方式で、点字教科書や点字版選挙公報、点字カレンダーなど多くの点字印刷物が、同機で作った原版を使って印刷されています。特に点字教科書や点字版選挙公報は印刷の精度や納期などの点で原版を用いた印刷が必要となるため、視覚障害者の学習権や選挙権の保障に欠かせない機器といっても過言ではありません。点字印刷・点字出版を長年にわたり支え、日本の点字文化の維持発展に貢献してきたその功績は、非常に大きいといえます。
小林氏は85歳の今もなお現役で、全国の点字図書館・点字出版所等で使われている機器のメンテナンスや、点字印刷機の自動化などの新たな開発にも意欲的に取り組まれています。
日本点字図書館でも点字教科書や点字版選挙公報等の製作を手がけていますが、日日の業務の中で欠かせない存在となっているブレイルシャトルの製造元である小林鉄工所と小林氏がこの賞に選ばれたことを、点字に携わる者として大変喜ばしく思っています。

長岡英司さんに第39回鳥居賞
日本盲人福祉委員会常務理事指田忠司
去る9月9日、京都市北区にある京都ライトハウスにおいて、今年39回目を迎える鳥居賞の贈呈式が行われた。
今回の受賞者は、この4月から社会福祉法人日本点字図書館理事長に就任された、長岡英司さん(71)である。
長岡さんは幼少期に失明し、現・筑波大学附属視覚特別支援学校小学部から中学部を経て高等部を卒業。その後1970年立教大学に点字受験で進学、1974年には大学院に進み数学で修士号を取得された。
1977年には株式会社キヤノンに就職し、当時最先端の視覚障害者用触覚読書器「オプタコン」の販売普及に従事された。
1979年、埼玉県所沢に新設された国立職業リハビリテーションセンターに就職し、電子計算機科を立ち上げて視覚障害者の新職業として注目されたプログラマーの育成に関わった。1990年に同センターを退職するまでに約30人の視覚障害者の訓練と就職を支援された。
1990年の4月からは茨城県つくば市に開設された国立筑波技術短期大学(現・筑波技術大学)に転職し、視覚障害のある学生の教育と指導に努め、同大に設置された障害者高等教育研究支援センターで教材作成や教育方法の研究開発に従事された。2016年に同大学を定年退職されるが、長年にわたる教育者・研究者としての実績が評価され同大名誉教授に就任された。
その後、日本点字図書館7代目館長に就任し、デジタル社会を迎えた点字図書館のサービスや組織のあり方など新たな課題への挑戦が始まった。
長岡さんとは学生時代からの交流があり、様々な場面でよき先輩としてご指導いただいた。とりわけ私自身の就職や職場での人間関係や仕事の進め方など細々と相談に乗っていただき、大変助けられた。
視覚障害者の伝統的職種であるあはき業の状況も大きく変わりつつある今日、視覚障害者を取り巻く課題も多様である。このことはボランティアの高齢化、ICT機器の発達普及の進展など点字図書館だけでなく、その利用者である視覚障害者自身の点字や機器の使い方なども大きく変化している。
長岡さんには、これまで点字図書館が果たしてきた役割をさらに充実するとともに新たな課題への挑戦とそれに見合った組織作りをリードしていただきたい。

第25回鳥居伊都賞を受けた山口規子さん
毎日新聞社点字毎日部濱井良文
京都ライトハウス創設者・鳥居篤治郎氏の妻・伊都さんの名を冠した鳥居伊都賞は、視覚障害者を支え共に人生を歩んだ人を顕彰している。
第25回受賞者に選ばれた関西盲人ホーム施設長の山口規子さんは、長年にわたり利用者の良き相談相手として支援にあたり、献身的な努力と熱意を持って活動を続けてきたと評価された。
視覚障害のある女性が利用する同施設は、兵庫県西宮市で1930(昭和5)年、関西盲婦人ホームとして創設された。
三療の資格を持つ女性が共同で生活しながら地域の人々を治療し、経験を重ねて技術を高めるのを目的に、現地で開業していた弱視の越岡ふみが彼女たちの自立を願って始めた。
その立ち上げには、点字毎日初代編集長の中村京太郎も関わった。
中村は、教育の機会に恵まれず、結婚や職業にも困難を抱えていた当時の視覚障害女性の状況を嘆き、保護の必要性を感じていた。西宮市に居を構えていた中村はホームの代表者に就き、その実践に取り組む。キリスト教の信仰に基づき運営し、利用者に対しては技術指導だけでなく、手芸や料理、英会話など今日の生活訓練のような習い事も取り入れた。
大学卒業後、教会に勤めていた山口さんが、この歴史あるホームで事務員兼指導員として働き始めたのは1987(昭和62)年。当時は18人の利用者が二つの寮で共同生活していた。1995(平成7)年に阪神・淡路大震災による被災を経験し、2002(平成14)年から施設長を務めている。年々利用者が減る中、施設の枠を超え、歩行訓練指導員として兵庫県内各地で支援を行った。さらに2005(平成17)年から日盲社協評議員に就任し、福祉関係者に視覚障害者の存在を忘れてもらっては困ると、さまざまな研修会などに参加。その経験とノウハウを今度は視覚障害リハの関係者に伝えた。
そもそもは、移動支援サービスが使えず外出の機会が少なかった利用者のために歩行訓練士の資格を取ろうと、土日に外部で学び始めたのが人の輪を広げることになった。9月の伝達式では、仕事の幅を広げることに理解を示してくれた職場や家族に感謝の思いを伝え、「これからもいろんな方と出会える社会を」とコロナ禍で途絶えていた交流の機会が盛んになるよう願いながら、まだまだ勉強したいと意欲を示した。
今後も、持ち前のにこやかな笑顔を全国各地で見せてもらいたい。

藤野克己さんのサリバン賞受賞を祝す
日盲社協参与・視覚障害者支援総合センター元理事長髙橋實
東京ヘレン・ケラー協会が主催する第30回ヘレンケラー・サリバン賞受賞の藤野克己さんに、心からお喜び申し上げます。
ただ、藤野さんは病気療養中のため、贈賞式はオンラインで行われたのですが、関係者の「感謝」と「喜び」は、実感できたでしょうか。これを機に、一日も早く全快されますことを願っております。
今では、差別語になりますが、私の現役時代「点キチ」とか「点字の虫」とか言われる活動家や研究者が何人かおられました。藤野さんもその一人でした。
私が藤野さんに初めてお目にかかったのは、1965年頃、何かの会議後、藤野さんから、お声がけをしていただいたように思います。物静かな青年で、点字の表記について話したように思います。
藤野さんのモットーである、「視覚障害者が抱える不便さに共感し、不便さを軽くできるようにお手伝いしたい」という姿勢に甘えて、それ以来、私が取り組んだ諸事業に絶大なお力添えを頂きました。特に点字に関わることでは、重責を担ってくださり、感謝してもしきれないほどです。次の3点はその最たるものです。
第1点は、文月会(日本盲人福祉研究会)時代、出版委員長だった田中徹二さん(現・日点会長)の提案で出版した『標準点字表記辞典』の編集委員をお引き受けいただいたことです。同書は、1980年の初版以来7版を数え、今も視覚障害者支援総合センターから書名を変更して出版されています。藤野さんは、6版までの30有余年編集委員として、利用者のために加わってくださいました。文月会も同センターもこの辞典で予想以上に助けられました。
2点目は、私が日盲社協の部会長や、常務理事在任中に「点字の質を向上させ、ひいては点字が手話通訳のように、公的に認められるような環境づくりをしたい」と思い、「点字技能制度の創設」を提案した折も、全面的な協力をいただいたことです。
また、制度の反映と質の向上のために研修会や講習会を開催しましたが、藤野さんはその指導や講演を快く引き受けてくれました。
3点目は、藤野さんから「中途視覚障害者にLサイズ点字を用いた、点字触読指導の普及と一般特に小学生への点字普及活動を主に行う『日本点字普及協会』を、立ち上げるので、その理事長になってほしい」という申し出を受けたことです。私は点字大好き人間ですから、喜んでお引き受けしましたが、私事で1年で退任しました。その間にも、組織をNPO法人にし、11月1日を「日本点字制定記念日」として、日本記念日協会に登録するなど、藤野さんの段取りは目覚しいものでした。同会の働きは一層高まりますので、これからに期待しております。

令和4年度片岡好亀賞に田畑美智子さん
NPO法人アキレス・インターナショナル・ジャパン理事長重田雅敏
先日うれしいニュースが飛び込んできた。同じランニングクラブの古い仲間であり、障害者の社会参加や女性の地位向上、難民問題や貧困問題に積極的に関わってきた田畑美智子さんが第17回片岡好亀賞を受賞したという一報である。
平成18年、名古屋ライトハウスの創立60周年に際して創立者の近藤正秋・片岡好亀を記念して近藤正秋賞・片岡好亀賞がもうけられた。田畑さんが受賞した片岡好亀賞は、「視覚障害者の福祉、教育、文化、スポーツ等の分野で活躍し、視覚障害者で社会的進歩のために著しい功績のある方に対して顕彰する」というもので、まさに田畑さんにこそふさわしい賞だといえる。
私が田畑さんと出会ったのは「アキレス」という障害者と健常者が共に楽しむランニングクラブだった。彼女はそのときすでに副代表をしており、練習始めの司会や運営スタッフ会でてきぱき話を進める姿が印象的だった。また、当時は珍しかった夫婦別姓についても厳格に実行し、しっかり自分の考えを持った方だと感じた。それから20年以上の付き合いになるが、難民の支援や国境なき医師団への支援、様々な国連や人権活動について話を伺う機会があり、ともすればおろそかにしてしまいがちな地球規模の大きな問題について、目を開き関心を引き出してくれた。
昨年までWBUAP(世界盲人連合アジア太平洋地域協議会)の会長を務め、世界中を飛び回って、特に発展途上国における視覚障害者の社会参加やスポーツ参加に力を尽くしてきた。モンゴル、中国、タイ、オーストラリアの話が印象に残っている。
彼女が国際会議で英語で司会やスピーチをする声を聴くことがあったが、どの国の代表と比べても全く引けを取らない自信に満ちた発言で、その熱意と気迫には一目も二目も置かざるを得ない素晴らしい輝きがあった。生き生きと英語で話す主張には、自分が役立っているという充足感と、周囲の人に勇気や力を与える天性というか、オーラのようなものが伝わってくる。
今回の受賞で、彼女がさらに自信を深め、世界中の視覚障害者や支援する方々との交流を広げ、力を緩めることなく一つでも多くの救済支援プロジェクト、スポーツ振興プロジェクトが進展することを期待したい。
目下最大の関心事であるウクライナ支援でも、日本盲人福祉委員会の評議員として現地盲学校の情報提供や募金活動で大きな力を発揮した。
これからもたくさんの壁やたくさんの逆風に怯むことなく前進する田畑さんを応援していきたい。

視覚障害者の書きたい・読みたい願いに応える高知システム開発に点毎文化賞
霊友会法友文庫点字図書館館長岩上義則
第59回点字毎日文化賞に、株式会社高知システム開発が選ばれた。点字毎日文化賞は、毎日新聞社が、視覚障害者の文化や教育・福祉の分野で貢献した個人や団体を讃える賞である。
高知システム開発は1983年の創業以来、視覚障害者の書きたい・読みたい願いに応えるべく、OSの進化に即したスクリーンリーダーを遅れることなく開発してきたほか、多彩な編集機能を有するマイワードワープロ、簡単操作でメールができるマイメール、新聞記事が読めてラジオも聴けるマイニュース、ネット検索が自在なネットリーダーなど、20製品を超えるソフトを開発してきた。
視覚障害者でパソコンユーザーの8割が高知システム開発のユーザーといわれるが、視覚特別支援学校や、視覚障害者が働く職場にも広く導入されて、職域の拡大や盲教育の改善にも貢献している。
人気の理由は、①簡単らくらく操作の実現、②詳細読み・音訓読み・簡易読みなど、文字の意味の理解を助ける読み上げに対応、③点字コマンドを採用している、の3点が上げられる。
点字ワープロの開発を切望して高知システム開発の大田博志社長をくどいた、当時高知盲学校教諭であった有光勲氏は「音声ワープロが出た頃、一般社会にはまだパソコン用ワープロは売られていなかったので、視覚障害者用ワープロが一歩先んじてスタートしたことになる。このようなケースは大変珍しいのではなかろうか」と言っている。
2018年に高知システム開発が設立30周年を迎えたとき、開発担当の横田孝彦さんに開発の夢を語ってもらったら、次のように言っていた。
「実現したいと思っているのは、皆さんに何かを楽しんでいただけるものを作りたいということです。例えば、カラオケを楽しめるとか、ゲーム感覚で何かを体験できるとか、そういったエンターテインメント性のあるソフトウェアを提供できるようにしたいですね。ユーザーの中にはカラオケ大得意な人が多いと聞いていますし、囲碁や将棋も盛んに行われていると聞いています。ご意見を当社までお寄せください」。
視覚障害者用ソフトの開発にいち早く取り組んだ高知システム開発は、視覚障害者の絶大な支援者なのである。高知システム開発の業績に深い敬意を表わすとともに、今後も有用なソフトの開発にご尽力くださるよう期待したい。

わが施設の今 第10回 毎日新聞社点字毎日部“創刊100年を迎えて”
点字毎日編集長濱井良文
今年5月、週刊『点字毎日』は創刊100年の節目を迎えました。活動の歴史や、ここまで積み上げてきた記録の重みについては、各方面で論じる機会を得ました。ここでは違った視点から100年間にわたり続けてこられた意義について触れてみます。
それは毎日新聞社という民間の、それなりに大きな組織の中で、一貫して視覚障害のある職員と共に働いてきたという点です。
創刊時の中村京太郎初代編集長は全盲の視覚障害当事者でした。教員でもあった中村は、点字毎日をいわば教科書に、点字の読める盲人を増やし「互いに知恵となり力となる」形を目指しました。点字新聞を通して全国の盲人に自覚を促す論説も展開し、その紙面を通して視覚障害者の知識を広げるだけでなく、全国に同じ境遇の仲間がいるということを知らしめました。さらに、紙面で意見や文芸作品を発表する場を提供し、視覚障害者に表現の機会を広めます。その紙面はやがて、読者同士の議論の場、情報交換の場、そして文化活動の場となっていきます。
美大生だったときに中途失明した2代目編集長の大野加久二を含め、戦後すぐまでの初期の点毎は、社会の動きを伝える「新聞」の役割を超越し、新たな盲人文化を生み出す土台を築いた時代でした。編集部の主役は視覚障害当事者が担っていました。
その後も、当事者の視点から編集の企画を立案して、記事の執筆にあたったほか、最初の読者として点字の触読校正にあたってきた視覚障害のスタッフは、わが職場には欠かせぬ存在であり続けています。
そして今日、全盲の佐木理人記者は毎日新聞の論説室勤務を兼ね、障害者問題に関係する社説を担当しています。
日盲社協には、視覚障害者を対象にサービスを提供する事業者が集っています。多くの職場で仲間として働く視覚障害者がいるはずです。そして、彼ら彼女らがいなければ成り立たないのではないでしょうか。
三療や音楽で自営する時代が長かった視覚障害者も今や、雇用されるケースが多くなっています。しかし、必ずしも尊厳をもって働いている人ばかりではないように感じます。そうした視覚障害者にとって、欠かせぬ存在だと頼りにされる職場として、視覚障害関係施設はこの先も歩みを続けていくことが大切だと感じています。

第70回全国盲人福祉施設大会(オンライン大会)
日盲社協主催による第70回全国盲人福祉施設大会が、10月28日(金)午前10時から東京都新宿区河田町にある東京視覚障害者生活支援センターをオンライン配信会場にハイブリッドで開催された。
挨拶に立った長岡雄一理事長は、コロナ禍の中、150人という昨年を上回る会員に参加いただき心より御礼申し上げる。来年70周年を迎える日盲社協は、視覚障害者への共感をどう保持するか、これは大きな課題である。昨年と今年は、この生活支援センターを配信場所に大会を実施したが、来年は建て替えるので、この場での挨拶は今日が最後になる。個人的には名残惜しいが、今後を考えたときここにとどまることは許されない。あらたな一歩を踏み出すことを期待して挨拶としたいと述べた。

講演Ⅰ 持続可能な網膜の再生医療
講師は(株)ビジョンケア代表取締役社長高橋政代氏で講演要旨は次の通り。
多くの患者から長年期待していただいた網膜の再生医療は 2014年の世界初 iPS細胞由来網膜色素上皮細胞移植を皮切りに臨床研究を重ね、網膜変性疾患群に対する「治療」の準備が整いつつある。だが、それを「医療」として成り立たせるためには、科学とは別の課題を解決する必要がある。
人工網膜や遺伝子治療など他の先進医療でも同様の大きなハードルは高額な治療費である。医療費抑制の日本で、再生医療の費用をどこから財源を得るのかというのは難しい問題だ。また、もう一つの大きなハードルは治療を受ける方々の期待値と現実のギャップだ。高額な治療を受けたから、良く見えるようになることを期待するのは当然だが、角膜と異なり網膜では大幅な視力向上は難しい。将来的には効果が増し、価格は低下し普通の治療と呼べる状態になるが、それまでは価格と効果のギャップが存在する。その際の期待値と効果のギャップを埋めるのがロービジョンケアや福祉であると考え、5年前に医療とロービジョンケアが一体となった神戸アイセンターを作り、アイセンター内の公益社団法人 NEXT VISIONでロービジョンケアのノウハウや情報を蓄積してきた。
再生医療に関しては患者会や支援団体の方々には、新しい治療に対する正しい情報と理解、また医療以外の解決策があるということを周知していただき共に新しい医療を作ってくださるようお願いしたい。
真のインクルージョンを目指す活動の中で気付いたのは、障害者の社会的価値ということだ。われわれの再生医療も iPS 細胞も障害のある方々がいなければ生まれなかったもので、障害を解決しようとしてイノベーションが起こるともいえる。
アダム・グラントの著書『GIVE & TAKE』によると、社会には「相手に惜しみなく与える」ギバー(Giver)と、「損得のバランスを考える」マッチャー(Matcher)、「自分の利益を優先させ受け取る」テイカー(Taker)がいるが、実は「賢いギバー」が最も成功するとある。
賢いギバーがネットワークを築くとき、大きな利益をたくさんの人に還元する仕組みができる。これを福祉の世界にも置き換え、障害者を与えられる存在ではなく、むしろ社会に大きな利益を与えるギバーであると認識すること。こういった意識の変換が財源確保のきっかけとなり、技術革新をもたらし、真のインクルーシブ社会に近づけるのではないかと述べて結んだ。

講演Ⅱ 視覚障害者福祉の未来像と日盲社協の役割
講師は、日本視覚障害者団体連合竹下義樹会長で、わが国視覚障害者福祉の現状と到達点を考えるとき、歴史から始めるのがよいと述べ、以下のような講演があった。
まず障害者福祉の歴史に触れ、そしてこれからの福祉のあり方、未来を考えるために権利条約に触れる。そして私自身が視覚障害者運動に身を置いて今日まで達成してきたことを踏まえ、私は日盲社協評議員でもあるが、日盲社協と日視連との関連をも含めて問題提起したい。
日視連(旧・日盲連)の副会長になってから17年ほどになる。この間、制度が加速度的に動いてきた。2006年に国連で障害者権利条約が採択され、同年国内では障害者自立支援法が施行された。その後権利条約が批准され、自立支援法が廃止され、障害者総合支援法が施行された。さらには障害者雇用促進法の大きな改正、障害者差別解消法の制定、読書バリアフリー法の制定、そして今年は「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律」が施行された。この変化を当事者が、日盲社協を担う皆さんがどれだけ実感し、自分たちの役割に置き換えるか、今考える必要があるように思う。
まず、わが国の到達点ということで、日本の福祉制度の概要を紹介する。
1949年身体障害者福祉法ができたが、障害者は権利の主体ではなく、保護される対象だった。私は1981年に司法試験に合格し、以来弁護士として活動して、障害者に関係する裁判をたくさん担当してきたが、その中で障害者の権利を守るやり方には工夫が必要だった。当時は障害者は保護の対象、行政の仕組みは措置制度だった。弁護士が障害者を守ろうというときどういう工夫をしたかというと、措置権限をもっている自治体の怠慢や措置権限の不行使、あるいは乱用ということで障害者の権利を守ろうとした。その大きな流れを変えたのが2000年の介護保険法の施行で、これにより障害者福祉のありようは抜本的に方向転換した。
2000年までは障害者福祉はすべて公的扶助、つまり政府の一般財源によってすべて賄われていたが、保険料という別の財源を作り出すことによって福祉を成り立たせようとした。そして支援費制度が2003年4月に施行され、すぐに財源不足に陥り崩壊して、2006年4月に障害者自立支援法へ移行する。そして政権交代があり、2010 年に障害者総合支援法へ移行する。同法では個別給付としての自立支援給付、および自治体に委ねられた地域生活支援事業の2類型となった。同行援護事業は極めて珍しく支援区分の認定を受けずに個別給付を受けられることになった。2015年に権利条約を批准するが、そのために障害者雇用促進法の改正と2013年に障害者差別解消法ができた。これには不満も多いが、新たに法律を作るのは並大抵の努力ではない。それに比べると既存の法律を改正するのはそれほど難しいことではない。
当初、民間事業者に対する合理的配慮は努力義務だったが、昨年5月の改正で差別解消法の目玉として8条2項の改正により民間事業者に対する合理的配慮が義務化された。もちろん民間事業には社会福祉法人も入るので皆さんの法人も対象である。
障害者総合支援法の改正法案がこの通常国会に上程される。そういう福祉の現状の中で、われわれが2014年に批准し、国が2016年に国連障害者権利委員会に提出した政府レポートがコロナ禍もあり大幅に遅れて、今年の8月に障害者権利委員会での審査が実施された。
これから権利条約と総括所見を整理するが、もっとも重要なことは障害の概念を医学的モデルから社会的モデルに切り替えたことと、合理的配慮がようやく法律用語になったことだ。
総括所見の中ではとくに以下の6つの項目に注目した。5条(無差別平等の原則)、9条(アクセシビリティ)、11条(災害時の問題)、20条(移動の自由)、24条(教育)、27条(就労上の平等実現)だ。
この27条では福祉的就労は禁止すべきといっているが、これをわれわれは受け入れることができるか。総括所見は日本の障害者運動の羅針盤になるという一方で、日本の制度の中で総括所見をすべてそのまま受け入れることにはならないという意見もある。日本の制度の持つ良さも維持すべきであるということでの相克である。その調整を含めて、障害者総合支援法の改正を今後どのように議論を深めていくのか、われわれの運動をどう統一化するのか問われる。
総括所見を重視する人々は、押し並べて障害種別団体を乗り越えた障害者の運動が必要だとの論調が非常に強い。私はこれを否定はしないが、だからといって同調することもできない。というのは障害種別によっては総括所見のある部分が受け入れがたかったり、議論が必要で、場合によっては修正が必要だと考えるからだ。
以上、権利条約や総括所見を学習し、議論することで核心に迫る必要がある。総括所見に基づいて障害者総合支援法の3年後の見直しは今すぐ開始する必要がある。
事業所とその利用者は利害が異なる場合も当然あるので、日盲連と日盲社協はその昔は不仲であった。その隙間を埋めるべく私は努力した。視覚障害関係者すべてのステークホルダーが協力しあわないと発展しないからだ。今後、日盲社協と日視連の連携をどう作るか、そのためには視覚障害者の未来像をどう共有し、運動と制度づくりをどのように分担するのかを議論し、作り上げる必要があると思う。

事業部会発表
吉川明常務理事の司会で、令和3年度5事業部会の活動報告が発表された。

点字出版部会(肥後正幸部会長)
点字出版部会では継続事業として、『点字図書出版速報』を12回発行し、『点字出版図書総合目録点字版(令和3年度版)』全4巻を40セット製作し、会員施設に配布した。そして「点字出版図書のデータベース」のデータ維持を行った。点字版自治体広報誌の発行普及・拡大に向けた取り組みについては現在検討中だ。昨年は衆議院議員総選挙が行われ、『選挙のお知らせ(点字版)』等を点字版部会の加盟施設がそれぞれ実施した。このために「選挙公報点字表記委員会」をオンラインで1回開催し、オンラインで選挙公報製作の打ち合わせ会議も1回開催した。点字普及の取り組みについては、審査すべき新たな事案や資料の持ち込みはなかったので実施しなかった。
『点字出版物製作基準』の製作については、コロナ禍のため、助成金の再申請も含めて活動を中止した。
事業部会・中間部会・職員研修会は、コロナ禍のため中止したが、点字出版部会の役員会はオンラインで1回開催した。

情報サービス部会(岡本博美部会長)

まず陳情報告で、前年度大会決議を受けて7月27日に、「読書バリアフリー法」の基本理念の一つである「障害の種類及び程度に応じた配慮」を推進するために、「情報化対応支援員」を全ての視覚障害者情報提供施設に配置するため国庫負担金の増額を厚労省に要望した。特に加速化するIT化対応と視覚障害者への情報提供には専門職員の配置は必須であると強調した。
全視情協大会決議同様、「校正員または音訳指導員」ではなく、「音訳指導員」として専従位置付けを要望した。
厚労省自立支援振興室からは、点字図書館補助金については「身体障害者保護費国庫負担金」の趣旨から、基本の職員5人に加えて追加配置することは予算上厳しい。読書バリアフリー法により、視覚以外の対象が増えたから増額というのは身体障害者福祉法の観点から難しい。2019年度より「情報化対応特別管理加算」を増額しており、今後も地域生活支援事業等の経費活用を願いたいとの回答だった。音訳指導員としての専従位置付けの件は特に回答はなかった。
次に部会事業の主な経過報告と今後の取組等について
①5月20日に音声版選挙公報製作研修会を経て無事、参院選の公報製作が終了した。 ②点字指導員講習会委員会では8月25日に再試験を実施し、11月29日研修会を予定している。
③7月27日の障害者放送協議会総会に代表委員を派遣した。
④11月17日~18日に情報化対応支援者研修会情報機器コースをオンラインで開催し、11月10日~11日に支援者コース基礎を、来年の2月9日~10日に応用をオンラインで開催する。
⑤音訳指導員養成合同プロジェクトでは、各ブロック研修会(11月~12月)を経て、認定試験を1月20日オンラインで実施する。

自立支援施設部会(山下文明部会長)

2022年7月27日にオンラインによる厚労省へ下記4項目の陳情を行ったので、それを中心に報告する。
①訓練系の各サービスについて、リモート支援等を個別給付として認める要望については、コロナ下での臨時的緩和措置で認められていたものが、一定の要件の下、通常支援においても柔軟に認められる方向になっており、新しい有効的な支援モデルの一つとして確立、定着させていきたいと感じている。厚労省側の回答もこうした状況をなぞる形で、「ICT活用による多様な支援について進めていく」との回答だった。
② 盲導犬(補助犬)育成経費の増額要望は毎年要望しているが、厚労省は「盲導犬育成事業は、視覚障害者の自立と社会参加に寄与していると認識しており、2分の1補助を実施し、促進事業に位置付けて推進してきた」と従来の回答に留まり、フォローアップ訓練経費の助成要望についても「盲導犬育成の必須事業化要望とともに意見として承った」という回答だった。
③盲人ホーム事業の運営助成金の増額も毎年要望しているが、「地域生活支援事業として一括して市町村に交付し、市町村裁量にて配分されていることから、特定の事業について予算配分の指示をすることはできない」との従来の回答と同じだった。
④コロナ下における経済活動の停滞は就労継続事業の生産活動や盲人ホームの収入に直接的に影響し、受注減による収入低下が利用者工賃・賃金の減少につながっていることから、工賃を補填する補助金の仕組みの創設を要望したが、「就労継続事業における工賃のアップについては、工賃向上計画事業において目指しているところ」との回答だった。
いずれも従来の回答から踏み込んだものはなかったが、通勤・通学・通所での同行援護サービスの柔軟な利用要望が「重度障害者等就労支援事業」に結びついたように、声を上げ続けていくことは重要なことと考えている。

生活施設部会(茂木幹央部会長)

盲老人ホームの職員給与の改善を図るための措置費の引き上げ運動に、ぜひ参加していただきたい。
公益社団法人全国老人福祉施設協議会(全国老施協)は、令和4年度、全国の養護老人ホームに呼びかけて、それぞれの所在地の市区町村長に対して、措置費の引き上げ要望を全国一斉に行った。
養護老人ホームは平成16年までは毎年8月に人事院勧告があって国家公務員の給与が引き上げられると、それに連動して養護老人ホームの職員給与も同じ比率で上がっていた。ところが平成17年に国が出す補助金とか、交付金の自由財源化を打ち出し、補助金や交付金は各自治体が自由に使っていいことになった。すると盲老人が施設に入るための措置費が削られ、選挙のときに票が集まるような体育館や文化会館等の建設に回された。このため平成17年から今日に至るまで養護老人ホームの措置費は上がらなくなった。もちろん1700市町村のうちには理解のある市町村もあるが、それは例外だ。措置費が上がらないと給与が安い割に仕事がきついので職員が集まらない。最も集まらないのは看護師、支援員、調理員で、比較的集まりやすいのは事務員や生活相談員である。
そこで全国老施協が音頭を取って令和4年度は全国に約950ある養護老人ホームが一斉に地元の市町村長に措置費引き上げを訴える要望書を出した。私も今年の1月27日に出してその結果が出た。
私の施設では、8月に話があって120人定員で入所者は3グループに分かれている。①は市町村長から措置費(入所費)が送られてくるグループ。②は介護保険を利用しているグループ。③は自費のグループ。
市長から措置費入所者の75人については、4月にさかのぼり月1人あたり1,290円値上げするといってきた。私はその配分を「ベースアップと加算手当として」支援員には月額2,400円、その他の職種、事務員、生活相談員、看護師、調理員は1,200円として支給したが、これは運動したお陰である。
介護保険を使用しているグループ(特定施設の入所者)は、2月1日から上がっており、30人で91,000円。これも支援員は月額2,400円、その他の職種は1,200円にした。支援員は入居者の食事・生活介助等の支援という大変な重労働を行っているので倍額にしたのである。
生活施設部会の皆様も同様な運動を起こすことを強くお勧めする。

盲人用具部会(岡村原正部会長)

まず反省点として、令和3年度も部会を1回も開くことができなかった。リモートでと企画したが、会員の都合等で断念した。
盲人用具部会ホームページの情報拡充は部会員の努力もあり様々な情報がリアルタイムで掲載できるようになった。そのためかアクセス数も増えている。現在、実際の使用者の方と対面での説明等が難しい中、もう少しアイテム数を増やしていきたいと思っている。
令和4年、盲人用具部会がバックアップしている視覚障害者のための情報先進型展示会「サイトワールド」は、コロナの先行きなど不確定要素が多く開催できなかった。来年度に向けて方法を考えているが、とりあえず6月頃にサイト出展者に連絡をとり何社くらい出展の意志があるのか調査したい。その上で色々な事情を考慮して開催の有無を決める事になるであろう。
また、2年程前から言われていた半導体不足、これが部会員のメーカー及び販社に徐々に影響を与えている。既にメーカーの数社が製品の発売延期や受注停止に追い込まれた。それによって販社も売り上げ計画の修正を余儀なくされた。
私事で恐縮だが弊社(JTR)も現在受注を停止している機種もある。これは半導体の納期が未定または1年先になるという事で計画が立てられないからである。たとえば、68シリーズという半導体は単価1,500円程であるが、メーカー及び代理店によると今までの様に100ヶ単位の受注は受けられない。最低でも1,000ヶ単位にしてほしい。それでも単価は倍近い値段になるとの事であったが、受けざるを得なかった。
このままでは、もし入荷したとしても莫大な在庫と金額を抱えなければならない。これは1例であり、このような部品が全機種1万点ぐらいある。経営的にもそれに耐えていかなくてはならないと思っている。メーカーだけの問題ではなく、9月29日付『点字毎日』で「福祉用具の値上げを巡って」との特集で佐木記者が深刻な実態を報告した。
盲人用具部会でも半導体不足への懸念をまとめ要望書を提出しようとしたが、盲人用具部会だけでは力が弱いと感じ、日視連と日盲社協役員に相談したところ、共同声明として取り扱っていただけるのではないかということで現在準備している。

式典
理事長による主催者挨拶の後、点訳・音訳等奉仕者91人に感謝状が贈呈され、永年勤続職員24人と援護功労者2人の表彰が行われた。
続いて厚生労働大臣祝辞の代読を会場にて厚労省障害保健福祉部企画課奥出吉規自立支援振興室長が、同じく東京都知事の祝辞代読を福祉保健局中川一典障害者施策推進部長が行った。
その後オンラインで日視連竹下義樹会長が祝辞を述べた。続いて会場にて日盲委指田忠司常務理事と、全視情協川崎弘副理事長が祝辞を述べた。
最後に大会アピールを荒川常務理事が読み上げ、閉会を宣言して大会は終了した。

令和4年度アピール・奉仕者(ボランティア)表彰者名簿

アピール
2020年から始まった新型コロナウイルスの流行も、今年で3年目に入りました。新しい生活様式にも少しずつ慣れ、日常生活もまだ不自由な部分はあるものの、かなりの落ち着きを見せてきました。しかし一方で、新型コロナウイルス感染症の存在が、視覚障害者への差別をあぶりだしもしました。
視覚障害者が集まる「サイトワールド」は3年ぶりの開催に向けて準備を始めました。最新機器に触れることができるこのイベントは、多くの視覚障害者が楽しみにしているものです。しかし、準備が開始された後になって、開催に二の足を踏む事態が起きました。
新型コロナウイルスに感染した視覚障害者が、医師から勧められた治療方法を自治体に断られたのです。理由は「目が見えないから」でした。この出来事は、サイトワールドの主催者に大きな衝撃を持って伝わり、結果として、サイトワールドの中止へと事態は進んでしまいました。
新型コロナウイルスとは無縁なところでも、理解のできない事態が起きています。
日常生活用具は、自治体で品目が異なっています。それ自身も大きな問題であり、課題ではありますが、さらに、給付に当たっての基準が、視覚障害者の特性を考慮することなく定められていたのです。
これらの出来事は視覚障害者の社会参加を大きく棄損するものです。
確かに、2016年には障害者差別解消法が施行され、視覚障害者への理解は進んできました。ホームドアの普及が進み、まだまだ不十分ながらも銀行における対応もかなりルール化されています。にもかかわらず、上記の例のように、まだまだ多くの問題が存在し、視覚障害者の社会参加の障壁となっているのです。
日本盲人社会福祉施設協議会は、視覚障害者の社会参加の支援を目的とする加盟施設を支え、さらに時代の変化による様々な問題・課題に対しても積極的な情報発信と、問題提起並びに解決に努めていくことを宣言いたします。
令和4年 10 月 28 日
第 70 回全国盲人福祉施設大会
社会福祉法人日本盲人社会福祉施設協議会

奉仕者(ボランティア)表彰者名簿
以下、施設名、氏名(敬称略)、奉仕内容の順。
北海点字図書館 寺本敦子(点訳)・樋口美津子(点訳)
旭川点字図書館 前多雅江(音訳)・粟田和子(点訳)
函館視覚障害者図書館 加藤豊美(音訳)・吉田美知子(点訳)
日本赤十字社北海道支部点字図書センター 上田えみ子(点訳)・土岐志津江(点訳)
青森県視覚障害者情報センター 久慈ひとみ(点訳)・駒場美智子(音訳)
秋田県点字図書館 黒澤のり子(点訳)・三浦有美子(音訳)
岩手県立視聴覚障害者情報センター 佐藤裕子(点訳)・佐藤美代子(音訳)
宮城県視覚障害者情報センター 秋山久美子(点訳)・井口春江(音訳)
山形県立点字図書館 小山愛子(点訳)・高橋トモ(音訳)
福島県点字図書館 松田知子(音訳)・髙浪靖子(点訳)
群馬県立点字図書館 菅谷奈保子(点訳)・豊浦桂子(音訳)
東日本盲導犬協会 横塚孝子(訓練犬シャンプー・トリミング)・田村淑子(事務ボランティア)
とちぎ視聴覚障害者情報センター 大塚礼子(音訳)・上野亜希子(デイジー編集音訳)
山梨ライトハウス情報文化センター 平間恵美子(音訳)・今村純子(点訳)
視覚障害者総合支援センターちば 石井恵美子(点訳)・菊間靖子(音訳)
日本点字図書館 中田公子(点訳・校正)
大田区立障害者総合サポートセンター声の図書室 安宅峯子(音訳)
ロゴス点字図書館 福家順子(音訳)
横須賀市点字図書館 橋本容子(点訳)・吉川恵(音訳)
神奈川県ライトセンター 内藤紀代(点訳)・林久美子(録音)・桑原せつ子(スポーツ・レクリエーション誘導)・永井照子(拡大写本)
福井県視覚障害者福祉協会情報提供センター 佐々木さおり(音訳デイジー編集)・山本文子(点訳)
視覚障害者生活情報センターぎふ 宮本佳子(デイジー編集)・山本久子(音訳デイジー編集)・遠藤ケイ子(点訳校正・判定)・村瀬秀子(点訳校正)
点字図書館「明生会館」 荻原園子(音訳・校正編集)
三重県視覚障害者支援センター 山田チエ子(点訳)・高橋直子(点訳)
天理教点字文庫 藤岡佐知子(点訳)・藤島順子(音訳)
奈良県視覚障害者福祉センター 上田啓子(音訳・校正)・宗正多恵子(点訳・校正)
京都ライトハウス情報ステーション 西尾紀子(点訳)・細野まり(音訳)
丹後視力障害者福祉センター 田中葉子(音訳)・竹鼻絹子(点訳・校正)
大阪府立福祉情報コミュニケーションセンター点字図書館 河野庸子(音訳・校正)・田窪知子(点訳)
堺市立健康福祉プラザ視覚・聴覚障害者センター 米田康江(音訳)・須川加奈子(点訳)
兵庫県点字図書館 髙見かず子(点訳)・沖幸代(音訳)
神戸市立点字図書館 藤原千江子(点訳)・桜井とみ代(音訳)
西宮市視覚障害者図書館 玉井恵美子(音訳)
島根ライトハウス ライトハウスライブラリー福田千種(点訳・校正)・濵田雄子(音訳・校正)
鳥取県ライトハウス点字図書館 和泉由美子(音訳)・山下千種(音訳)
岡山県視覚障害者センター 原宗子(朗読・録音)
山口県点字図書館 内藤充子(音訳)
周南視覚障害者図書館 森次朗子(点訳)・岡本伸子(音訳)
香川県視覚障害者福祉センター 有田幹子(点訳)・森脇真由美(音訳)
徳島県立障害者交流プラザ視聴覚障害者支援センター 井藤友子(点訳)・今関英子(音訳)
愛媛県視聴覚福祉センター 山越義晴(点訳)・髙部美恵子(音訳)
福岡点字図書館 松本輝昭(点訳)・緒方道子(音訳)
福岡市立点字図書館 坂口雅子(点訳)・近藤和代(音訳)
北九州市立点字図書館 田丸いさ乃(音訳)・福永賢子(点訳)
熊本県点字図書館 中村久美(点訳)・八代絹子(音訳)
都城市点字図書館 石原靖子(音訳)・江夏美子(点訳)
鹿児島県視聴覚障害者情報センター 樺山幸子(点訳)・宝満恭子(音訳)

ウクライナ協同基金報告
日本盲人福祉委員会事務局鉾林さゆり

ウクライナの視覚障害者の今 活動報告と募金継続について
ロシアによるウクライナへの侵略行為は半年を過ぎても収まる様子はなく、現地は厳しい冬を迎えようとしています。日本盲人福祉委員会(日盲委)では、世界盲人連合(WBU)を通じ、日本からウクライナの視覚障害者へ支援を届けています。
本誌84号にご案内した、4月15日~8月31日の募集期間に日盲委に寄せられた援助金を6月と9月にWBUウクライナ協同基金(カナダ本部)に送金しました。温かいご協力誠にありがとうございました。
第1回(6月) 2,240,317円
第2回(9月) 2,928,870円
合計  5,169,600円(165個人、85団体)
同基金には、9月までに世界中から約14万ドル(約2,000万円)が寄せられ、WBUでは欧州盲人連合(EBU)や欧州の人道支援団体等と協力して援助、支援活動を行っています。具体的には白杖等の補装具の配布、英国退役盲軍人協会と提携してリハビリテーションの集中ワークショップの実施、周辺国を含む盲学校や支援団体との連絡・調整などです。

募金受付継続について
残念ながら、戦争は長期化しており、今後もまだまだ支援が必要です。日盲委としても、以下により、募金の受付を行うことにいたしました。引き続き皆様のご協力をお願いいたします。
受付期間:2022年12月31日まで
寄付方法①:郵便振替
口座番号00190-3-587919
口座名義(福)日本盲人福祉委員会
払込用紙をご希望の方は、事務局(電話03-5291-7885)までお申し付けください。

寄付方法②:クラウドファンディング
下記URLにアクセスし、クレジットカードまたは銀行振込によりご送金ください。
https://congrant.com/project/nichimoui/5542/

サイトワールドを中止したわけ
NPO法人サイトワールド理事長荒川明宏
サイトワールドは、「ふれてみよう!日常サポートから最先端テクノロジーまで」を合言葉に展示会と講演・フォーラム、体験会等を開催し、世界でも例を見ない視覚障害者のための総合イベントとして定着してきた。ただ、コロナ禍のため昨年と一昨年は中止のやむなきに至った。
そこで、何とか本年は3年ぶりに開催を目指して、出展各社も決まり、出展料も振り込んでもらって、11月1日(日本点字の日)、2日、3日(文化の日)に開催する予定で関係者一同張り切っていた。
ところが7月に新型コロナウイルスが全国的に流行し、高田馬場でも日本点字図書館、東京ヘレン・ケラー協会、桜雲会、そして(株)ラビットと軒並み陽性者が出た。
私も発熱したので通院すると陽性と判定され、しかも、重症化リスクが高いと判断され、中和抗体薬治療を医師に勧められた。
そこで東京都中和抗体薬治療コールセンターに電話すると、色々な質問をされたので全盲であることを話すと、「ここでは受付できないので、居住地の練馬区保健所が対応しますから、そちらに連絡してください」と言われた。
「なるほど東京全体では対象者が多すぎるので、居住地の保健所で手厚く対応してくれるのか」と私は納得した。
ところが、練馬区の保健所では「目が見えない人は対応できません」の一点張りでけんもほろろの電話対応だったのだ。
「目が見えないのなら付き添いを連れてきてください」というのならまだ分かる。しかし有無を言わせずの門前払いである。
そのときの私の症状は、発熱と味覚・嗅覚障害、それに全身倦怠感で、その症状がさらに悪くなるような話を聞き、電話をこれ以上続ける気力は無かった。そこで後事を妻に託すと、彼女はひどい話だと怒って抗議したがついに何の進展もなかった。
翌々日頃、保健所の責任ある人から電話がかかってきて、「病院ではなく、学校の教室のようなところで、夜は医師もおらず目が見えない人に来られても困る」という。そこで、「何かあったらどうするんですか?」と聞くと、「救急車を呼んでください」という人を食った返事だった。
私がコロナ陽性と判定されたのは金曜日で、東京都や練馬区保健所に断られたのは7月20日(水)だが、翌木曜日から体調がさらに悪くなったので救急センターに電話すると、「その程度なら病院の引き取り手はありませんよ」と断られた。
その後、数日で回復したからよかったが、この件でつくづく感じたのは「サイトワールドを開催して、私同様に感染リスクが高い人が、COVID-19に罹患したら、行政は同様の対応を取るだろう」という確信だった。医師が最善の策として示したものを、行政の勝手な都合で握りつぶして治療を拒否するこの現状をみて、サイトワールド開催にまったく責任が持てなくなった。そこでせっかくやる気になっていた出展者を説得して急遽中止にしたのである。

日盲社協事務局だより
1.表彰者・受賞者情報
令和4年度鳥居賞に日本点字図書館理事長 長岡英司氏、鳥居伊都賞に日盲社協評議員・関西盲人ホーム施設長 山口規子氏、点毎文化賞に高知システム開発

2.加盟施設変更情報
(1)名称変更・住所変更等
<情報サービス部会>
佐賀県立点字図書館が令和4年4月付で名称変更
新名称 佐賀県立視覚障害者情報・交流センター、住所等は変わらず
(2)施設長等変更(敬称略)
<情報サービス部会>
兵庫県点字図書館 新館長大谷武氏(令和3年1月付)

Zoomミーティング・ウェビナーの貸出
昨年に引き続きZoomミーティングとZoomウェビナーを貸し出します。利用希望の会員施設は日盲社協事務局宛にメール(nichimou.su@feel.ocn.ne.jp)で、使用期日等を記載の上お申し込みください。

編集後記
前ページの「サイトワールドを中止したわけ」で紹介されている東京都中和抗体薬治療コールセンターの対応外国語は、英語、中国語、韓国語、ベトナム語、タガログ語、ネパール語、ミャンマー語、タイ語、フランス語、ポルトガル語、スペイン語の11か国語で、都内在住の外国人にも至れり尽くせりです。ただ、「対象は都民の方で、視覚障害者は除く」と記載すべきではなかったでしょうか?
荒川明宏さんは東京都盲人福祉協会(都盲協)の会員ということもあり、都盲協が東京都にこの件について問い合わせの書簡を送ったそうです。
このため8月中旬に東京都福祉保健局から荒川さん宛に「今後このようなことがないように対応します」という、一応謝罪のような電話があったといいます。
その上で荒川さんは、「当事者をよく知るコーディネーターを配置しないと、どのように素晴らしい機関を作っても、私と同じように視覚障害者は、また、爪弾きにされるのではないか」と危惧しておられました。
今号の『日盲社協通信』は、割付の段階では記事不足を心配していたのですが、その後、追加記事が増えて盛りだくさんになりました。このためレイアウト的には不満が残る、少し窮屈な構成になってしまったことをお詫びいたします。(福山博)

本誌は、教職員共済生活協同組合の助成により作成したものです。

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  1. 日盲社協通信 令和元年(2019年)11月号(通巻79号)

  2. 日盲社協通信 令和4年(2022年)7月号(通巻84号)

  3. 日盲社協通信 令和3年(2021年)4月号(通巻82号)

  4. 日盲社協通信 平成26年(2014年)4月号(通巻68号)

  5. 日盲社協通信 平成29年(2017年)4月号(通巻74号)

  6. 日盲社協通信 平成23年(2011年)11月号(通巻63号)