点字出版部会は、令和元年(2019)11月28・29の両日、東京都杉並区の阿佐谷地域区民センターにおいて職員研修会を、19施設、56人の参加で開催した。
1日目(13~17時)のプログラムは
1.自動製版機技術交流ワークショップ
分科会① 小林鉄工所製自動点字製版機「ブレイルシャトル」に関する分科会(座長:山本たろ氏)
分科会② 仲村点字器製作所製自動点字製版機「ZP メーカー」に関する分科会(座長:金子研一氏)
講演「ZPメーカー電子回路のリニューアルについて」(講師:金子研一氏)
2.日本点字図書館のふれる博物館の説明とルイ・ブライユの生家と日本点字図書館の立体模型に触る体験会(解説:日本点字図書館ふれる博物館川島早苗氏)
3.日本新聞インキ株式会社が開発中のインクジェット方式による点字プリンターの紹介と実演
2日目(9~12時)のプログラムは
4.講演『日本点字表記法2018年版準拠点字出版物製作基準』(講師:日本ライトハウス点字情報技術センター〔TeCTI〕福井哲也所長)
5.情報交換
ここでは「ワークショップ」の分科会①と分科会②、それに講演にしぼって以下に報告する。
分科会①
小林鉄工所製自動点字製版機「ブレイルシャトル」に関する分科会
(座長:山本たろ氏)
京都の小林鉄工所製ブレイルシャトルは、点字出版業界の中心的自動点字製版機だが、それゆえに不具合時の修理対応や機器改善などについての要望も多い。
そこで本部会では平成29年度に小林鉄工所社長に講演していただき、平成30年度にはメーリングリストを活用し、情報交換や要望の整理、小林鉄工所からの回答の発表を行い、課題の確認や修理技術の向上に努めた。そして令和元年度の分科会①に際しては、メーリングリストへの新規加入施設も含めた報告資料を更新し、(1)視覚障害者生活情報センターぎふ、(2)岡山ライトハウス、(3)名古屋盲人情報文化センター、(4)光の家栄光園、(5)佐賀ライトハウス六星館からの実践報告を元に16施設、31人の参加で、ブレイルシャトルの修理や調整等に関する情報交換を行った。
各施設のブレイルシャトルは、最古は昭和63年(1988)で、最新は令和元年(2019)導入と幅広く、使用OSもWindows 14台、MS-DOS 5台、F-BASIC 1台であった。
事例発表では、「点字原版のある行に『氏』しの1マスしか刻印しなかった場合、それ以降は一切作動しなくなる」等の不具合例が紹介された。また、打ち損じの原版を持ち込んでの発表等も行われ議論が沸騰した。
解決策も注油や清掃から、ネジの締め付け調整、製版速度の調整、クラッチブレーキパックやマイクロセンサーの交換など多様で3年間の技術の蓄積がみられたが、小林鉄工所との連携についての強い要望があり、修理体制の改善が大きな継続課題と考えられる。
分科会②
仲村点字器製作所製自動点字製版機「ZP メーカー」に関する分科会
(座長:金子研一氏)
仲村点字器製作所製自動点字製版機ZPメーカーは、製造元による修理等を受けることが極めて困難な状況にある。
2017年度に開催された職員研修会では、この状況を共通認識し、点字出版所は相互に協力をしながら自らの手で自動点字製版機のメンテナンスを実施しなければならないことを改めて確認した。
その後、メーリングリスト等を使い、関係者はZPメーカーの不具合や修理内容を互いに連絡し、トラブルに遭遇した施設からのSOSに対して、解決策を提示して問題を解決した事もあった。
今回のZPメーカーに関する分科会②は、日頃メールや電話でやり取りをしている関係者が、直に顔を合わせて知見を披露する貴重な機会となり、誤作動によって打ち損じた見本や、交換したセンサー、モーター、ギアを持ち寄って、トラブル対処法の意見交換も行った。
この間の教訓は、清掃と注油を怠ると、すぐに症状が現れないが、徐々に部品を痛め、ある日突然音を出して壊れる。記録がないと、同じトラブルや実験的な試行を繰り返す結果となるということだった。
2年前に比べると、かなり立ち入ってZPメーカーを解体して、組み立てている施設もあり頼もしい限りだ。だが我々は機械技術者ではなく、あくまでも使う側であることを忘れず、安全第一で取り組んでほしいものである。
講演「ZPメーカーの電子回路のリニューアルについて」
TeCTIでは平成15年(2003)からZPメーカーを使用しているが、7年ほど前から点字の位置が上下にずれる「行ズレ」、左右にずれる「マスズレ」が発生し、年々その頻度が増してきた。
この不具合の原因は「電子回路の劣化」という見解に至ったが、問題の電子回路に使用されている部品は非常に古く、修理や複製は不可能だった。そこで専門業者の協力を得て、平成30年(2018)から新しい電子回路の開発に着手。このたびTeCTIが保有する3 台の「ZP メーカー」すべての電子回路のリニューアルが完了し、正常な動作が確認できたのでここに発表した。
専門的技術的な話題は避け、リニューアル前のZPメーカーの動きを記録しておく方法、専門業者を見つけるまでの経緯、完成後修理不能に陥らないために汎用性の高い部品を使用する設計思想、開発中に遭遇したトラブルなどを報告した。
「電子回路の劣化」が原因だと推測できる不具合に悩まされている施設は多数あり、電子回路のリニューアルを希望する施設もある。当センターは、まだ開発した電子回路の実用検証段階を脱しきれておらず、すぐにお応えすることはできないが、今後は、開発した電子回路の外部提供の準備を整えたいと考えている。また、報告の中で紹介したWindowsのパソコンで動く、当センター製の点字編集・自動製版システム「WinBred10」を使用したいとの声も上がり、こちらについては有償だが、すぐにでも提供が可能である旨伝えた。
2017年度の職員研修会で、「電子回路のリニューアル」をZPメーカーの課題として挙げ、それから2年経ちようやく成果を報告することができた。残る課題は、原板に点字を刻印する凹型の「受け」と凸型の「ピン」の製作だ。これも開発の糸口を見つけ出し、今後開かれる職員研修会で報告したいものである。